「遺留分(いりゅうぶん)」とは
日本の相続法において、法定相続人に最低限保障される相続分のことを指します。
つまり、被相続人(亡くなった人)が遺言などで財産を自由に分配したとしても(例えば、被相続人が「全財産を愛人に譲る」と遺言したとしても)、一定の相続人には法律上保障された取り分(=遺留分)があり、それを侵害された場合は取り戻す権利があります。
🔹 遺留分の対象となる相続人
遺留分を持つのは、以下の法定相続人です。
相続人の種類 | 遺留分の権利 |
配偶者 | あり |
子(直系卑属) | あり |
親(直系尊属) | あり(子がいない場合) |
兄弟姉妹 | なし |
※兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
🔹 遺留分の割合
- 直系尊属のみが相続人:全体の相続財産の価額の 1/3
- それ以外(配偶者・子などがいる場合):全体の相続財産の価額の 1/2
↓
- 相続人が数人ある場合:上記の割合×各人の法定相続分の割合
💡補足:法定相続分とは
被相続人が遺言を残さなかった場合に、民法が定める各相続人の取り分のことです。遺言がない場合、原則としてこの法定相続分に従って遺産が分配されます。
相続人の構成 |
法定相続分 |
配偶者のみ | 100% |
配偶者 + 子(1人以上) | 配偶者:1/2、子全体:1/2(均等に分ける) |
配偶者 + 親(直系尊属) | 配偶者:2/3、親全体:1/3 |
配偶者 + 兄弟姉妹 | 配偶者:3/4、兄弟姉妹全体:1/4 |
配偶者がいないとき | 優先順位:1.子(子だけが相続、人数で等分)
2.親(子がいなければ) 3.兄弟姉妹(子も親もいなければ) |
🔹 遺留分侵害額請求(旧称:遺留分減殺請求)
遺留分を侵害された相続人は、「遺留分侵害額請求」を行うことができます。
この請求は、相続開始と遺留分侵害を知ってから 1年以内 に行う必要があります。
また、相続が開始してから10年以内に行う必要があります(除斥期間)。
🔹補足:相続財産の「価額」には何が含まれるか?
遺留分の計算対象となるのは、以下の財産です:
- 被相続人が亡くなった時点の 財産の価額
- 生前贈与(特別受益)も加味されることがあります
- 債務(借金)は差し引かれます
💡遺留分の具体的な計算例
🔸 ケース1:配偶者と子1人が相続人
【状況】
- 被相続人の財産総額:6,000万円
- 相続人:配偶者と子1人(合計2人)
- 遺言:全財産をAという知人に遺贈すると記載されていた
【法定相続分】
- 配偶者:1/2
- 子:1/2
【遺留分割合】
→ 子と配偶者が相続人なので、法定相続人全体の遺留分は 1/2
→ それぞれの個別遺留分は:
- 配偶者:6,000万円 × 1/2(遺留分全体) × 1/2(法定相続分) = 1,500万円
- 子:同様に 1,500万円
✅ 合計で3,000万円(全体の1/2)が遺留分として保障されています。
🔸 ケース2:子2人だけが相続人
【状況】
- 遺産総額:8,000万円
- 相続人:子2人
- 遺言:Bという知人に全財産を遺贈すると記載されていた
【法定相続分】
- 子A:1/2
- 子B:1/2
【遺留分割合】
→ 子が相続人なので、法定相続人全体の遺留分は遺留分は 1/2
→ それぞれの個別遺留分は:
- 8,000万円 × 1/2 × 1/2 = 2,000万円
(2人合わせて4,000万円)
✅ 合計で4,000万円(全体の1/2)が遺留分として保障されています。
🔸 ケース3:配偶者と親(父母)が相続人
【状況】
- 遺産総額:9,000万円
- 相続人:配偶者と父母(被相続人に子はいない)
【法定相続分】
- 配偶者:2/3
- 親(父母合わせて):1/3
【遺留分割合】
→ 親も相続人だが、親のみではなく配偶者もいるので、法定相続人全体の遺留分は 1/2
→ それぞれの個別遺留分は:
- 配偶者:9,000万 × 1/2 × 2/3 = 3,000万円
- 父母合計:9,000万 × 1/2 × 1/3 = 1,500万円
🔸 ケース4:親(父母)のみが相続人
【状況】
- 遺産総額:9,000万円
- 相続人:父母のみ
【法定相続分】
- 父母:すべて
【遺留分割合】
→親のみなので、法定相続人全体の遺留分は 1/3
→ それぞれの個別遺留分は:
- 父母合計:9,000万 × 1/3 = 3,000万円
💡「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」の手続きについて
遺留分を侵害された相続人が、侵害している相手に金銭の支払いを求める法的手続きです。
🔹【遺留分侵害額請求の手続きの流れ】
✅ ステップ①:相続開始と内容の確認
- 被相続人の遺言書や生前贈与の内容を確認
- 自分の遺留分が侵害されているかどうかを調査
- 相続財産の総額・構成・分配先を把握する
必要なら弁護士や司法書士に依頼して「財産目録」の作成を。
✅ ステップ②:遺留分侵害額の計算
- 遺留分の割合を確認(例:相続人が子のみ→全体の1/2が遺留分)
- どのくらい侵害されているかを具体的な金額で算出
✅ ステップ③:内容証明郵便で請求書を送付(任意交渉)
- 遺留分を侵害している相手(受遺者や贈与を受けた人)に
- 「遺留分侵害額請求書」を作成し、内容証明郵便で送付
📝 内容証明には以下を記載します。
- 被相続人の名前と死亡日
- 相続人(請求者)の関係と権利
- 遺留分の計算結果と請求金額
- 支払い期限
- 法的措置の可能性
✅ ステップ④:話し合い・和解交渉(必要に応じて調停・訴訟)
- 任意で話し合いがつく場合 → 和解書を作成
- 合意できない場合 → 家庭裁判所に調停、または地方裁判所に訴訟提起
⏰【注意】時効(除斥期間)に注意!
✅ 相続開始と、遺留分侵害を知ってから「1年以内」
✅ または相続開始から「10年以内」どちらか早い方
これを過ぎると請求できなくなります(非常に重要!)
📄 遺留分侵害額請求書(雛形)
令和○年○月○日
○○様(受遺者・受贈者)
私は、令和○年○月○日に死亡した○○(被相続人)の子(または配偶者等)である○○です。
本件相続において、貴殿が遺言または贈与により取得した財産は、私の遺留分を侵害しております。
つきましては、遺留分侵害額として金○○○○万円の支払いを請求いたします。
本書面到達後、○週間以内にご対応いただけますようお願い申し上げます。
なお、誠意あるご対応をいただけない場合には、法的手続きを検討させていただきます。
敬具
○○(氏名)
住所:
電話番号:
💡 補足:弁護士への相談をおすすめするケース
- 相続財産の内容が複雑(不動産、会社株式など含む)
- 相手が交渉に応じない
- 他の相続人ともめている
こうした場合は、遺留分に詳しい弁護士に相談するのが最善です。
ご希望の場合は弁護士のご紹介をさせていただきます。